日本では 全く注目されていない英経済指標のひとつにPSNB (Public Sector Net Borrowing) 公共部門純借り入れ高 という数字があります。一番 新しい数字(6月分)が先週金曜日(18日)に発表され それが週末の新聞を賑わしていました。今回は PSNB そして英労働党政権の財政規律に関して 記事を書いて行こうと思います。かなり長くなると思いますので 2~3回に分けて書きますね
1979年に成立したサッチャー政権は、戦後の国有化政策のツケとも言える「英国病」(行政の肥大化、高福祉・高負担、強い労働組合、経済の低生産性等)への対応が最優先課題でした。サッチャー政権は このような状況に対応するために 大胆な行政改革

積極的な民営化を実施した事は ご存知の方も多数いらっしゃると思います。サッチャー政権が1990年に終焉し 同じ保守党のメージャー政権が発足。この政権下では財政面でも ある程度の余裕があった為か 行政サービスの質の維持/向上にも配慮されるという変化が生じ 国民を行政サービスの「消費者」としてとらえ、そのような「消費者」のニーズに的確に答えようとする姿勢へ変化していきました。
そして 1997年5月に労働党:ブレア政権誕生。新政権の行政改革に関する考え方は、「大きな政府」対「小さな政府」という従来の思想的対立軸にとらわれるものではなく、国民にとって「よりよい政府」を作るという実用主義的なものへと変化していきました。1999年3月に、政府が今後の行政改革の在り方についての基本的スタンスを明らかにした白書 “Modernizing government”(政府の近代化)を発表しましたが そこにも書かれているように 「結果指向」の行政を目指すことが強く打ち出されています。
労働党は財政政策として 1998年6月に
経済・財政戦略レポート(Economic and Fiscal Strategy Report)を発表し 国家歳出を ①向こう3年間の各年の歳出上限が定められる事項(DEL)と 単年度の歳出事項(AME)とに分ける ②このような予算事項の枠組みに合わせて、3か年を1タームとして歳出の総見直しを行い、その後3年間の歳出の枠組みを決定する という今までに例のない財政政策への取り組み姿勢を明らかにしました。このレポート発表の際の記者会見(1998年6月11日)で、当時のブラウン蔵相は、それまでの予算制度への反省点として、①長期的計画性を欠いた一年ごとの予算編成作業 ②長期的な資源配分を省みず、年末の性急な予算消化をもたらす単年度の予算制度 ③(行政活動の)結果ではなく、予算額のみに注目した増分主義的予算配分等を 指摘したそうです。
(具体的に言いますと 英国において、このような複数年度予算的仕組みが導入された背景には、それまでの<単年度予算>主義の下においては短期的な視野からのみ行政活動が行われ、そのために行政活動によって何を達成しようとするのかという結果指向の考え方が生まれず、予算等のインプットのみを重視する傾向があったことに対する反省。このような問題に対応するために、各省庁に対して、3年間の歳出の確実性と、その利用に関するある程度の裁量の幅を認め、それと引換えに 行政活動の成果を的確に生み出すことを各省庁に対して求めるという姿勢を鮮明にしました)
この<3ヵ年 1ターム>をベースにした労働党による税制/財政改革への取組みは その後 同年12月に
財政安定化規律(The Code for FiscalStability)の導入と これに基づいた財政運営、経常支出と資本支出との厳密な区分とに 特徴付けられて行きました。
財政安定化規律とは 何を指すのでしょうか?財政安定化規律においては、それまでの不適切な財政運営が経済の不安定化要因となってきたとの反省に立ち、財政運営の基礎となる考え方として、安定、透明、責任、公正、効率という5原則が打ち出されてます。また、財政は明確な目的とルールに基づいて運営されるべきとされており、これを受けて 政府は新たな財政ルールとして、ゴールデン・ルールと、サステイナビリティ・ルールとを定め、その後の財政運営はこれらの基本的ルールに忠実に乗っ取った形で運営されて来ました。
<新たな財政ルール>ゴールデン・ルール・景気の循環を通じて、
政府の借入れは投資目的に限り行い、国債発行額は純投資額(グロス投資額―減価償却)を超えてはならない。
サステイナビリティ・ルール・景気の循環を通じて、ネットの公的債務残高を 対GDP比で安定的かつ慎重なレベルに保つ。
◎サステイナビリティ・ルールに関しては、現在 政府は、
ネットの公的部門純債務残高が対GDP比で40%以下のレベルにあることを目標としています (これは、大蔵省の公的サービス合意において明らかにされているものであり、何らかの法的意思決定を経たものでは ありません)
政府は、80年代末から90年代初めにかけての財政運営において、景気循環の影響を十分考慮しないまま 財政緩和が行われたことが、経済の不安定性を高めたとの反省から、財政運営において景気循環を十分に考慮しつつ、慎重な態度で運営するべきとされています。このような考え方を受けて、ゴールデン・ルール、サステイナビリティ・ルールともに 「景気の循環を通じて」達成しなければならない とされています。すなわち、
これらのルールは毎年厳密に達成されなければならないというものではなく、景気の循環を通じて見た場合に、過去の財政状況の分析の上、及び将来の財政見通しの上の双方で達成されていなければならないということを意味する と理解していいように思います。非常に グレーな部分ですよね、これは。
この続きは また後ほど
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